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学生プロジェクト

大野さんと炭焼き


 その2. 炭焼き窯は「山の化学工場」

 
 ところで、私たちのサークル「クラブ炭焼き」が大野製炭工場にインターンシップに入ったのは金沢大学の角間キャンパスで炭窯をつくったことで、今度は炭焼きの技術を習得したいと考えたことがきっかけだった。そこで、大学の炭窯づくりの経緯について簡単に紹介したい。
 この炭窯づくりにはいろいろなドラマがあった。スタートは06年10月。炭焼きを通して環境を学びたいと、角間の里山自然学校の中村晃規研究員に相談したことがきっかけだった。
 石川県能美市の炭焼き職人、安田宏三さんから手ほどきを受けて、設計図の制作から始めた。金沢大学創立五十周年記念館「角間の里」の裏手を上がった竹やぶの横。元からあった段差を利用して奥行き2.5メートル、幅2メートルの炭窯をつくる。最初は「荒堀り」。重機を使わずにクワやスコップを持ち、地下にひろがる竹の地下茎と戦いながら手堀りで頑張った。そして排水や煙道づくり、窯底づくり、レンガ積みと少しづつカタチになってきた去年1月、窯の技術指導をしてくれていた方が急逝、さらにその年の2月には炭焼き小屋が雪の重みでつぶれるという事態に。そんなハプニングに見舞われながらも、まさに手づくりの炭窯が完成したのは去年12月だった。
 
 炭焼き窯は「山の化学工場」と呼ばれるように、大気と物質の熱交換の論理で成り立っていて、味わい深い。里山保全と二酸化炭素の吸収、木質バイオマスと地球温暖化の関係についても学べる。日本の焼き鳥屋やうなぎの蒲焼屋で使用されている年間3万トンにも及ぶウバメガシの備長炭(白炭)は7割から8割が中国などからの輸入品といわれる。数字が定かではないのは、中国は表向き国内の山林保護のため木炭の輸出を禁止しているからだ。ではその貿易のカラクリはなんだろうといったことも興味の対象だ。ところで、炭焼きを職業としている人は普段どんなことを考えているのだろうか。大野さんという人物にとても興味がわいた。

 
 大野製炭工場でのインターンシップの第2回はことし1月23日から25日の日程で行われた。
 ここで大野製炭工場について紹介すると、窯は全部で4基あり、年間生産量はおよそ30トン。石川県内では生産量が一番多い。燃料となる炭のほか、湿度調整のための「床下調湿炭」、土壌改良材、木酢(もくさく)液を産出している。面白いのはオブジェの製作。野菜から樹木まで焼けるものは何でも、ブラックアートのオブジェとして焼き上げる。いま32歳の大野さんは2代目で、創業は1970年代。燃料革命が起きて石油やガスが能登の先端に普及し、多くの炭焼き職人が廃業に追い込まれていく中、炭焼きと縁がなかった先代(父親)が「これから炭が必ず見直される時代がくる」と始めたのだという。
  
 
 雪がちらつく中、1日目の作業。小高い丘の上に集積された炭の材料となる木材(コナラ)の運搬と分別、それに木材を詰めた炭窯を閉じて行う炊き出しまで。切りそろえられた材木は、適度な長さに切りそろえて、一本ずつ丁寧に窯に詰める。この作業が終われば、窯の入口にレンガで蓋(ふた)をして窯焚きの作業となる。
 窯焚きは約5日間かかる。昼夜問わずに火の管理をするのがなかなか難しい作業となる。煙の様子を見ながら火を止めて冷ますこともあるそうだ。

 
 炭焼きは古典的な職業で、経験と直感の勝負というイメージがあると思う。しかし、大野さんの説明はそれを見事に打ち破ってくれた。
 要所要所に細かな計算がある。窯の内と外の湿度の測定、水分の放出による木材の収縮の計算などだ。この計算を間違うと良質の炭は焼けない。
 大野さんは「炭焼きは決して単調な仕事ではない。一回一回焼く炭はどれも焼き上がりが違う。ごまかしが利かない。手を抜けば、油断すればそれが結果として姿を現す。炭から自分自身が見えてくる」と。
 火を入れてから冷ますまで約2週間でようやく炭が生まれる。

 
作業場に火鉢があった。炭がパチパチと細かくはぜる音がして、炎が揺らぐ。作業休憩の間、大野さんとしばらく暖をとる。
 ぽつりと「炭焼き経営は決して楽ではないよ」と。30年もののコナラの木20本分でだいたい1窯分を焼くことになる。そこから取れる木炭の量は600~700キロ。木炭の出荷相場はだいたい1キロ200~350円だ。つまり高く売れたとしても1窯15万円ほど。
 「これだと炭焼きは生業(なりわい)としては成り立たん。少なくとも若者は魅力を感じない」(大野さん)。では、クヌギの木を植林して、最高級のお茶炭に転換したらどんな計算が成り立つか。大野さんは、お茶炭を1キロ1000円で出荷している。実にコナラの3倍近い。1キロ1600円で出荷する県内業者もいるといい、「ただ僕はまだ若く、キロ1600円も取れるような名人の域に達してもいない」と謙遜した。「ただね、炭焼きを志す同年代の人たちと競い合いながらお茶炭を極めたいという気持ちがある。能登で良質の炭を焼き続けることが、日本の茶道文化を守ることになるって素晴らしいことだと思わないかい」と大野さんは目を細めた。
 
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